5.16

『のだめカンタービレ』の着想となった一枚の写真。眺めていると涙が出そうになった。当時音大生の野田恵さんは漫画家二ノ宮知子さんのファンで、公式サイトで交流を持った二ノ宮さんのファン達と自宅でオフ会を行ったそうなのだけど、その際に参加した方が荒れた部屋を見て「のだめ、部屋汚すぎ」とか言いながら撮影したものらしい。赤いカーテン、鍵盤カバーや座椅子。それらがレフ板のように中央の小柄の女性に光を集めている。集められた光の先、この部屋で1番白いシャツを着た人はこの世界で1番白く見える。ペダルを踏む左足の指先は楽しげで、床に散らかったさまざまな生活の痕跡と対比してあまりに陽気で健気で美しい。

もしもハマスホイが採用した画角でこの部屋が撮影されたとしたら、おそらく写真の良さのほとんどは失われてしまうだろう。ハマスホイが描いたのは部屋であり、そこを流れる時間だった。確かに撮影者は「部屋、汚すぎる」と言って撮ったというのだけど、本当のところ、ピアノを弾く野田恵さんを撮りたかったのだということを写真は打ち明けていると思う。

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